魔法使いの弟子の見習い書記官の「研究手帖」

附記:Fragments of 「BEAST of EAST」

<開設 2016/06/24 → 最終更新 2018/05/04>

□ 連載開始より二十余年、完結が待たれる山田章博先生の「BEAST of EAST」にまつわるよしなし事。

▽ 映画「九尾の狐と飛丸」とその周辺

▽「妖怪 金色姫」についての覚え書き



映画「九尾の狐と飛丸」とその周辺

山田章博先生の描く、本朝夢幻冒険絵巻「BEAST of EAST-東方眩暈録-」。その連載開始にあわせて、「コミックバーガー」1995年12月号(スコラ)に掲載されたインタビュー「making of BEAST of EAST」(同号P13-14)にこんな一節があります。

「--「BEAST of EAST」誕生のきっかけを教えて下さい。
山田 子供の頃、九尾の狐の物語を劇場用漫画映画で見た記憶があるんですよ。あまりに記憶が定かでないので、夢で見たのかもしれないと思ってたら、後年資料で調べてみると昭和43年に日本動画KKが作ってたそうです。えらくきれいな絵だった印象があります。(中略)せっかく九尾の狐なんて妖怪が出て来るのにスペクタクル・シーンも少なくて、少し不満だったのを憶えています。(後略)」

その後、この映画について長く思い出す事もなかったが、「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」等の香港映画の中国志怪物を観るうちに、ふとその二つが結びついた。と、山田先生は語っています。『そうだ、スペクタル・シーンが無いと不平を言う前に、進んで灯をつけましょう』と、どうやらそのような因果で「BEAST of EAST-東方眩暈録-」は構想されたもののようです。

この、少年時代の山田章博先生が観た九尾の狐の物語とは、映画「九尾の狐と飛丸」でした。
筆者は2013年11月に東京・大崎で開催された上映会(*)でこの映画を観ましたが、作品の源流のひとつとなった映画と、山田先生が描く「BEAST of EAST-東方眩暈録-」との類似点や相違点などをおおまかに知る事ができ、なるほどと一人うなずいたものでした。例えば単純なプロットだけ取り出してみれば、「BEAST of EAST」では、岡本綺堂の小説「玉藻の前」と、それを原作としているもののかなりの脚色を加えられた映画「九尾の狐と飛丸」が、巧妙にブレンドされていたのです。
(*「現代視覚文化研究会Sアニメーション上映会」として、東京都立多摩図書館所蔵の16㎜フィルムによる上映がおこなわれました。)

この映画の詳細については、素人が百万言を費やすよりも、Webサイト「映画の國」に2012年に掲載された木全公彦氏のコラムを読んでいただいた方がよいかと思われますので、ぜひそちらをご確認ください。

・『九尾の狐と飛丸』をめぐって(前篇) (2012/07/10)
http://www.eiganokuni.com/kimata/53-1.html

・『九尾の狐と飛丸』をめぐって(後篇) (2012/08/14)
http://www.eiganokuni.com/kimata/54-1.html

(※ 同コラムの冒頭に登場する「日本アニメーション映画史」(山口旦訓、渡辺泰著、プラネット編、有文社、1977年)については、国立国会図書館・東京本館に所蔵のものが、しばらく破損防止のため「禁複写」の扱いとなっていましたが、2016年現在は新技術の開発により複写可能となっています。「九尾の狐と飛丸」の掲載ページは、同書P290-291。)


さて、この映画「九尾の狐と飛丸」に関連したコミカライズ作品があると知ったのは、2016年春の事。
「週刊 少女フレンド」で1968年(昭和43年)7月から8月にかけて連載された、緑川淳「妖怪 金色姫」がそれ。映画封切りを当て込んで掲載されたとおぼしき、今でいう「メディアミックス」企画だったようですが、残念ながら映画公開時期がずれ込んだ事もあり、充分な宣伝効果は得られたなかったのではないかと推測されます。また漫画作品そのものも、クライマックスが駆け足で、映画とは違う展開となっていることもあり、どうやら打ち切りだったのではないかと想像されます。
こちらは雑誌への掲載時期等を考えると、少年時代の山田章博先生が目にしていた可能性は薄く、「BEAST of EAST-東方眩暈録-」との関連はあまり考えられませんが、「九尾の狐と飛丸」を源流とする貴重な先行作品。せっかくなので、内容を確認してみる事にしました。下記はその覚え書きです。


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「妖怪 金色姫」についての覚え書き

映画「九尾の狐と飛丸」のコミカライズ作品。作者は緑川淳。全6話(本編82ページ)。1968年(昭和43年)夏休みの映画封切りを見込んだ連載だったようですが、実際の映画封切りは同年10月とやや連載時期よりも遅れています。なお、連載時には扉に日本動画株式会社による(C)こそ入っていますが、「九尾の狐と飛丸」のタイトルはどこにも付与されていません。

* タイトルの読みは「ようかい こんじきひめ」。
* 連載時には話数表示がないため、この覚え書きでの話数表示は便宜上のものです。
* ≪あらすじ≫として書き記した文は筆者が書き起こしたもので、作中には登場しない語彙も使用しています。
* 「週刊 少女フレンド」の掲載号は、国立国会図書館に収蔵されており、2016年現在は破損防止のためコピー不可/別室閲覧となっていましたが、2018年5月現在は「国立国会図書館デジタルコレクション」により館内閲覧・複写が可能となっています。

 ▽ to 第1話  ▽ to 第2話  ▽ to 第3話
 ▽ to 第4話  ▽ to 第5話  ▽ to 第6話

* 作品の内容は映画と同一ではありませんが、いわゆるネタバレが含まれます。映画未見の方はご注意ください。



「週刊 少女フレンド」 1968年(昭和43年)第31号(7月30日号)
* 売出日:1968年(昭和43年)7月8日/定価60円

<妖怪 金色姫・予告>
→ P110)次号予告

<予告アオリ>
・『少女フレンド初登場 緑川淳先生の妖怪金色姫』
・『このお話は、1,000年前、那須(現在の栃木県)の里にすんでいた美しい少女玉藻と飛丸の、かなしい恋の物語です。ある日とつぜん、玉藻に悪魔がのりうつって…。』



「週刊 少女フレンド」 1968年(昭和43年)第32号(8月6日号)
* 売出日:1968年(昭和43年)7月15日/定価60円

(** 昭和43年8月6日発行/第6巻第34号(通巻295号)/講談社)

<妖怪 金色姫・第1話>
→ P069~P083)扉+本編14ページ

≪あらすじ≫
本編巻頭は、那須の「殺生石」の解説。続いて、那須の野山で遊ぶ飛丸と玉藻の場面。矢を射かけられ追われる動物たちと遭遇し、玉藻とわかれて様子を見に行った飛丸は、狩りを楽しんでいた関白の弟・藤原忠長(青びょうたん)やその郎党・高虎(ちょうちんふぐ)と対峙する。忠長らが引きあげた後、飛丸は玉藻を探すが行方がわからない。夜の那須の山中をさ迷う玉藻は、妖しい狐火と遭遇し「地獄の主・悪魔の王」を名乗る影から自らの出生の秘密を知らされる。彼女は日本を悪魔の領土にするため、悪魔の王が十八年前に那須野におくった悪魔「魔美留女(まみるめ)」だったのだ。藤原忠長をたぶらかせと指令され戸惑う玉藻に、悪魔の王は悪魔の魂(九尾)を吹き込む。



<表紙アオリ>
・『新連載/こわいまんがの決定版!』

<扉・天アオリ>
・『いよいよ登場!おもわずぞっとするこわいまんがの決定版!』

<扉・柱アオリ>
・『美しい少女玉藻と、少年飛丸は、平和で、しあわせな毎日をおくっていた。ところが、ある日とつぜん……。』

<本編途中・柱アオリ/P070>
・『この物語は、栃木県にある「殺生石」にまつわるお話です。あなたも、このふしぎな岩のなぞをといてみましょう。』

<本編末・柱アオリ>
・『美しい少女玉藻のからだに、悪魔がのりうつった! ますますおもしろくなる第三十三号をおまちください!』

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「週刊 少女フレンド」 1968年(昭和43年)第33号(8月12日号)
* 売出日:1968年(昭和43年)7月22日/定価70円

<妖怪 金色姫・第2話>
→ P229~P243)扉+本編14ページ

≪あらすじ≫
玉藻が起こした嵐のために那須の山中で道に迷った藤原忠長を助けた玉藻は、忠長に連れられて都へ。忠長の帰京を祝う宴の席で、安倍泰成は玉藻にただならぬ気配を感じる。一方、那須に残された飛丸は、玉藻を連れ戻すため都に向かって旅立つ。その際、玉藻の父親から、玉藻が捨て子であった事を知らされる。都の玉藻は、彼女を魔魅瑠女(まみるめ)と呼ぶ悪魔の王の指令に従い、忠長の館に火を放つ。



<扉・天アオリ>
・『◆すごい人気!夏休み中にカラー映画で上映されます。◆』

<扉・柱アオリ>
・『少女玉藻は、悪魔のつかいだったのです。玉藻にだまされているのもしらず、藤原忠長は、玉藻をつれて都へ…。』

<本編途中・柱アオリ/P231>
・『那須の野で、とつぜんあらしにまきこまれた忠長の一行-。これは、悪魔になった美しい玉藻のしわざか…。』

<本編末・柱アオリ>
・『悪魔になった玉藻は、日本の国をほろぼすため、つぎつぎと使命をはたしていきます。いっぽう飛丸は…。』

**「すごい人気!」と扉には毎回書かれていますが、本作は第2話以降雑誌巻末が指定席となっていました。

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「週刊 少女フレンド」 1968年(昭和43年)第34号(8月20日号)
* 売出日:1968年(昭和43年)7月29日/定価70円

(** 昭和43年8月20日発行/第6巻第37号(通巻298号)/講談社)

<妖怪 金色姫・第3話>
→ P229~P243)扉+本編14ページ

≪あらすじ≫
玉藻が起こした大火事以来、都では雨が降らなくなっていた。その頃ようやく都に辿り着いた飛丸は、玉藻を連れ戻すため藤原忠長の屋敷を訪れるが、郎党に追い返されてしまう。「飛丸さま わたしが こんなからだにさえ なっていなければ いますぐ あなたのそばへいけるのに……」飛丸の来訪を知り思い悩む玉藻は、悪魔の王から安倍泰成の雨乞いの祈りを邪魔するように指令を受ける。一方飛丸は、安倍泰成の娘・千種を暴れ牛から助けた縁で、安倍泰成と知り合う。安倍泰成は関白から雨乞いの祈祷の依頼を受け、この日照りが悪魔のしわざである事を看破する。



<扉・天アオリ>
・『◆すごい人気!夏休み中にカラー映画で上映されます。◆』

<扉・柱アオリ>
・『玉藻をつれもどしにやってきた那須の飛丸。しかし、悪魔にあやつられる玉藻は、さらにおそろしいことを……。』

<はじめて読む人に/P231>
・『玉藻と飛丸は、那須(栃木県)の里で、平和な毎日をおくっていました。ところがある日、玉藻に悪魔がのりうつり、悪魔の王に日本の国をほろぼせと命じられたのです。玉藻は、悪魔の使命をはたすため、時の左大臣藤原忠長にちかづきます。そして、京の都を大火事にして……。』

<本編末・柱アオリ>
・『悪魔からのがれようとする玉藻ですが、やむなく、うらない師の泰成と対決しなければなりません。はたして……?』

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「週刊 少女フレンド」 1968年(昭和43年)第35号(8月27日号)
* 売出日:1968年(昭和43年)8月5日/定価70円

(** 昭和43年8月27日発行/第6巻第38号(通巻299号)/講談社)

<妖怪 金色姫・第4話>
→ P225~P239)扉+本編14ページ

≪あらすじ≫
日照りの続く都では、加茂川で安倍泰成の雨乞いの祈祷会が行われる事となった。飛丸は泰成の娘・千草から、玉藻が「日本をほろぼすために中国からきた魔美留女というおそろしいきつねの化身」である事を知らされるが、信じられない。やがて泰成による雨乞いの祈祷がはじまるが、雨は降る気配もない。玉藻はこの日照りが関白の責任であり、自分が祈って雨が降ったならば関白の位を忠長に渡すようにと言い放ち、泰成にかわって祈祷に挑む。飛丸、玉藻、関白、千草らが入り乱れ騒然とするなか、玉藻の祈りによって雨が降りはじめる。千草はこれを玉藻が悪魔の正体を現したものと断じるが、飛丸は玉藻がなにかに取り憑かれているものと思い、彼女を救うすべを知ろうとする。そんな飛丸に、安倍泰成は奈良東大寺の白雲僧正をたずねるよう告げるのだった。



<扉・天アオリ>
・『◆すごい人気!夏休み中にカラー映画で上映されます。◆』

<扉・柱アオリ>
・『恋しい飛丸さまといっしょに、那須の里へかえりたいと思う玉藻ですが、悪魔からのがれることができず……。』

<はじめて読む人に/P226>
・『玉藻と飛丸は、那須(栃木県)の里で、平和な毎日をおくっていました。ところがある日、玉藻は悪魔にとりつかれ、「日本をほろぼせ。」と命じられたのです。京の都へきた玉藻は、時の左大臣忠長に近づき、悪事をはたらきます。でも玉藻は、飛丸をわすれることができません。』

<本編末・柱アオリ>
・『忠長をつかって、悪事をたくらむ、おそろしい玉藻。いっぽう、飛丸は、玉藻をたすけようとするのですが……。』

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「週刊 少女フレンド」 1968年(昭和43年)第36号(9月3日号)
* 売出日:1968年(昭和43年)8月12日/定価70円

(** 昭和43年9月3日発行/第6巻第39号(通巻300号)/講談社)

<妖怪 金色姫・第5話>
→ P232~P245)扉+本編13ページ

≪あらすじ≫
雨乞いの祈祷に失敗した安倍泰成に、藤原忠長から追捕の手が差し向けられる。飛丸は泰成の娘・千草を東大寺に逃がし、自らは玉藻の住まう忠長の屋敷の離れにある浮世堂に忍び込む。飛丸と再会し喜ぶ玉藻。ふたりは手をとりあって那須へと向かうが、その途中、玉藻は悪魔の王により自らの真の姿を見せられ、命令に背くならば元の狐の姿に戻すと脅される。玉藻は悪魔の王の最後の命令として、都の仏像をすべて壊し、自らの像を作らせるよう命じられ、再び忠長のもとへ向かう。一方、玉藻とはぐれた飛丸は、東大寺の白雲僧正をたずねる。僧正は、悪魔を倒すためには不動明王の鉾を探し出す必要があると飛丸に告げる。自らの巨像が造営されていく中、東大寺の白雲僧正が大仏を手放さないと知った玉藻は、九尾の狐の姿に変じて東大寺へと向かう。



<扉・天アオリ>
・『◆すごい人気!夏休み中にカラー映画で上映されます。◆』

<扉・柱アオリ>
・『うまく玉藻をさがしだし、那須の里ににげようとした飛丸。と、そのとき、ふたりの前に、おそろしい悪魔が……!』

<はじめて読む人に/P233>
・『悪魔にとりつかれた玉藻は、京にのぼり、忠長を利用して悪事をはたらきます。悪魔の王の命令で、日本をほろぼせというのです。いっぽう、玉藻と結婚のやくそくまでした飛丸は、玉藻をすくおうと京へきました。玉藻をすくう方法は、東大寺の白雲僧正だけが知っているというのです。』

<本編末・柱アオリ>
・『きつねと化した玉藻は、こんどは、なにをたくらんでいるのでしょう。いよいよもりあがる最終回をおたのしみに!』

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「週刊 少女フレンド」 1968年(昭和43年)第37号(9月10日号)
* 売出日:1968年(昭和43年)8月20日/定価70円

(** 昭和43年9月10日発行/第6巻第40号(通巻301号)/講談社)

<妖怪 金色姫・第6話>
→ P226~P239)本編14ページ

≪あらすじ≫
東大寺に飛来した九尾の狐は、再び玉藻の姿となると狐火で大仏殿に火を放つ。白雲僧正が大仏とともに焼け落ちる中、玉藻は千草と対峙する。「いいえ あなたが いくら 飛丸さまを思っても あのかたは玉藻のものです けっしてわたしませぬ!」固い決意で使命を果たそうとする玉藻だが、一方飛丸は焼け落ちた大仏の首から不動明王の鉾を見つけだす。東大寺炎上の後、ついに玉藻の巨像が完成する。その仕上げとして、千草の血で巨像のくちびるに紅をさそうとする玉藻だが、そこに不動明王の鉾を手にした飛丸が現れる。飛丸は不動明王の鉾で玉藻の悪魔の心を祓おうとするが逃げられ、目から火炎を放つ巨像と対峙する。玉藻の起こした嵐の中、なお玉藻を追おうとする飛丸は千草に止められるが「たとえ 玉藻が きつねの化身でも 悪魔のつかいでも おれは 玉藻をにくむことはできない!」と再び玉藻のもとへと向かう。ついに不動明王の鉾が玉藻から九尾の狐を祓い、ふたりは那須野へと帰って行く。しかし悪魔の王の呪いによって、玉藻は那須野で殺生石に姿を変えてしまうのだった。



<巻頭・天アオリ>
・『◆那須野にある殺生石には、美しい玉藻の命が……!◆』

<巻頭・柱アオリ>
・『玉藻にとりついた悪魔とたたかい、玉藻をすくいだした飛丸。しかし、那須野についたときには、いがいにも……。』

<はじめて読む人に/P227>
・悪魔にとりつかれた玉藻は、京にのぼり、忠長を利用して悪事をはたらきます。悪魔の王の命令で、日本をほろぼせというのです。いっぽう、玉藻と結婚のやくそくまでしていた飛丸は、玉藻をすくうため、東大寺の白雲僧正をたずね、不動明王の鉾ですくえと、おしえられたのです。』

<本編末・柱アオリ>
・『みなさん、長いあいだ、ご愛読ありがとうございました。(編集部)』

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文責:初音むつな (魔法使いの弟子の見習い書記官)
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